財団に就職して最初にペアを組んだ派遣のスタッフさんは、偶然にも住んでいる場所も一駅しか違わず、よく一緒に帰りました。
電車に並んで座って、いつも楽しく色々な話をしながら帰ったものです。
ある日の帰りの出来事です。
いつものように二人で並んで座り話をしていました。
と、次の瞬間、わたしは立っていました。
目の前のわたしが座っていたはずの席には、こう言ってはなんですが、
とんでもなく汚らしいおじいさんが座っています。
そして、
もし、よろしければ、こちらにお掛けになりませんか?
と、あの岐阜の山奥で聞いた以来の美しい日本語が、
なんとわたしの口から発せられて席を譲ったという記憶だけが、わたしの頭の中にあったのです。
通常なら、
わたしが座っている前に、お年寄りがやってきます。
わたしはそのお年寄りを見て、「席を譲ろう」と思い、「どうぞ」とか、せいぜい「こちらに、どうぞ」とか言って席を立つ。
お年寄りが「どうも、ありがとう」とか言いながら、その席に座る。
こんなふうに進んで行くのではないでしょうか。
でも、その時は、まるでタイムスリップでもしたかのように、そのリアルなやり取りが、すっぽり抜け落ちているのです。
スタッフさんといつものように話をしていたはずが、氣がつくと既にわたしは立っていました。
そして、
もし、よろしければ、こちらにお掛けになりませんか
と、日本語好きのわたしとて、滅多に使ったことのない美しい日本語と共に席を譲ったという記憶だけが頭の中に・・・
狐につままれたような気持で、その日は帰りました。
翌日、職場に行くと、スタッフさんが言いました。
昨日、恰好良かったですね。
え?
わたしは聞き返しました。
だって、あんな汚いおじいさんに席を譲るなんて
そこで、わたしは昨日の不思議な感覚を彼女に話しました。
すると、彼女は、こう言いました。
もしかしたら、あのおじいさんは神様が姿を変えて現れたのかも
きっと、これからいいことがありますよ
確かに、岐阜の霊山で、美しい日本語を聞いたあと、
わたしは再就職先が決まり上京。自活できるようになりました。
とすれば、今回もまた、なにかいいことが起きるのかも・・・
淡い期待を持ちながらも、日々の忙しさに紛れて、いつしかそんな出来事のあったことすら忘れていきました。
まさか、その数カ月後に、今の夫と劇的な出会いをして電撃結婚をすることになろうとは・・・
投稿日時: 2016年05月27日
カテゴリ: ブログ