お由布が包丁で自害しようとしたところが、この小説のクライマックスですが、
その後の清之助の素っ気ない態度で、まるでなかった事の様に過ぎて行く。
読者としては少し物足りないところですが、それが筆者としての狙いだったかも知れません。
もし、クライマックスのシーンで、清之助が、
お由布、なぜこんなことをしたんだ!
と、問うことができたなら、この小説の展開も、また違ったものになったのだろうと思います。
という書き方をすると、
自分で書いているのに、他人事のような言い方だな
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
この感覚については、少し説明が難しいのですが……
確かに、登場人物の設定は、当然ですが、わたしがしています。
話の展開も。
だからといって、ストーリーのすべてを、わたしにコントロールできているわけではありません。
小説を書き始めると、登場人物たちが、それぞれに生き生きと動き始めます。
そうなるとしめたもので、わたしは、ひたすら彼らを観察し、描写していきます。
そういうときが、一番楽しい。
作品を書いていて、途中で煮詰まってしまうとき。
そんな時は無理に書き進めず、人物設定にまで戻ります。
そして、今一度丁寧に設定し直します。
すると、スムーズに動いていくようになる。
そんな経験が何度もあります。
清之助だけでなく、お由布もまた、素直に語ることができたなら、
この夫婦も仲のよい夫婦になれたはず。
でも、なれなかった。
それは何故なのか?
じっくり考えてみるのも、楽しいですね。