ごとう ゆみこ様
初めてメッセージします。
(中略)
幼くして両親を亡くしたお由布に、自分と重ね合わせて速いペースで読み進みました。
時代劇は、その風俗を描くのにかなりしっかりした下調べが必要であり、キチンと出来ているなぁ、と思いました。
時代モノは、多くはないですが山本周五郎、司馬遼太郎などを読んでいます。
お由布と清之助。うまく噛みあえば固い絆が結ばれる組み合わせの筈が、どうしても裏目に出る。この辺りの描写はよく描けていると思いました。
読者としては、お由布に肩入れするのが普通だと思いますが、清之助の側の気持ちが良く判ります。真面目にやって来た者ほど相手に厳しくなってしまう。女性とのつきあいもなく、あまり相手を知らないうちに夫婦になり、女房とはこういうものだという先入観に支配されている。
まるで俺のことか(笑)。
その辺りの事は小説の中でも説明されており、いろんなエピソードの中で少しづつ氷解して行くのかな?と思っていましたが、なかなかその距離が縮まらない。それがお由布の持つ「かたくなさ」なのか。
しかし体調不良で寝たり起きたりの女房に、清之助もけっこう辛抱強くガマンしてるなぁと感心。
この状況なら、もっと怒っている筈。その辺りは物事を理性的に考えて、それほど横暴な人間ではないという評価をしています。
お由布が包丁で自害しようとしたところが、この小説のクライマックスですが、その後の清之助の素っ気ない態度で、まるでなかった事の様に過ぎて行く。読者としては少し物足りないところですが、それが筆者としての狙いだったかも知れません。
貸本屋を介して知り合う幸吉については、次第に縮まる距離感が自然でいいと思いましたが、幸吉が飲み屋の帰りでお由布を抱きしめたところが、少し違和感。初めて一緒に飲食をした晩の行動としては早すぎる。
それに輪をかけて、あっさりお由布の心が幸吉に傾いて行くのも軽すぎる。
そして清之助と別れ、幸吉の住む長屋で夕餉を作って待つ。この畳みかけがあまりにも早くて、やや尻切れトンボの感がありました。あえて修羅場を描かないという手法があるのも判りますが・・・
ちょっと惜しいな、という印象です。
前半の描写で清之助の事を、子供の頃から奉公で苦労し女性、妻に対して固定観念はあるものの、情がないわけではないと表現しています。
別れの場面でも、それを活かす事は出来たと思います。
幸吉の存在を知り、怒って修羅場も起きるが、自分の力ではお由布の心を溶かす事が出来ないという事を納得して離縁に応じるという流れもある様に思う。
それか、幸吉の存在で修羅場が起きる事で、清之助の本心が吐露され、それでようやくお由布の心が開くという展開もあり得る。
あの流れで、お由布が何事もなく清之助と別れて幸吉と結ばれる、というのが何か「ハーレクインロマンス」的で、深く心に残らないというのが「惜しい」。
(後略)
Yさま(男性)より