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途中で店を出てきた真奈子は《鹿鳴館ロックフェスタ》で、KIXがどのような結果を迎えたのかを知らずにいた。
あれから何度か、あちこちのライブハウスに行ってみたが、なぜかKIXの名前は、どの店の看板にもなかった。
手がかりは、完全に失われた。
山内に連れられて芝居を観に行ってから、真奈子は再びデザインの勉強に意欲を見出していた。
今まで芝居などには興味もなかったが、あの日見た衣装が忘れられなかった。貧乏劇団が限られた予算の中で目一杯工夫した衣装が、真奈子の心に深い印象を残していた。
人と違うもの、新しいもの。そんなものばかりを追い求めていたように思う。しかし、デザインとは、果たしてそうしたものなのだろうか。
真奈子は自分の目の前に1本の道が、おぼろげながらも浮かび上がりつつあるのを感じていた。
授業の遅れを取り戻すのは、容易なことではなかった。毎日休まず通っていても、付いていくのに必死だったのだ。だが、投げやりな気持ちには、不思議とならなかった。むしろ、その大変さを楽しむことができた。必死にがんばっている自分を、愛しいとさえ思うことが出来た。
あれきり山内の消息は分からない。甘えたり、頼ったりできる人を失った代わりに、真奈子は夢を手に入れた。それは、まだ彼女をしっかりと支えることができるほどの根を張ってはいない。が、手に入れたのだけは、確かなようだった。
連日の徹夜続きで、どうしようもないくらいに疲れていた。それでも明日までに絶対に仕上げなければならない課題があった。
どんなに辛くても、どんなに心細くても、自分自身が頑張るしかない。真奈子は諦めとも開き直りともつかない気分になっていた。
眠気覚ましにキッチンでコーヒーを入れると、FMラジオのスイッチを入れた。
「みんなー、元気でがんばってるかい。イエィ!」
疲れて澱んだ深夜の部屋に、能天気なほどに明るい声が響く。
「ところで、つい先日盛大に開催された《鹿鳴館ロックフェスタ》、知ってるよね。行列作って聞きに行った暇人も、結構いるんじゃない? なーんてね。失礼しました。イェィ!」
え、なに。
慌ててラジオのボリュームを上げる。
「……。な、なーんと、新しいバンドの誕生だ。その名は、KIX。彼らの来年春のデビューが決まった。やったぜ、ヒュー! そ・こ・で・だ。KIXのデビューを記念して、鹿鳴館で11月3日、コンサートが開かれるよ。ずっと、KIXを応援してきた君も、そうでない彼女も、ぜひ行ってくれ! 頼むぜ、イエィ!」
何?
何て、言ったの。
いま、何て言ったの。
どうしたって、言うの。
デビューが決まったって、今言ったよね。
確かに、そう言ったよね。
あの日、あの夜、山内を探して訪れた鹿鳴館のステージで、KIXは居合わせた関係者の目に留まったのだった。
やったね。
やったね。
とうとう、やったんだね。
真奈子はコーヒーカップを握りしめる両手に、力を込めた。
つづく