さて、無事飛行機に乗り込みまして
わたしの席は◎
S子さんは、通路を挟んだ〇
そして、わたしの前の〇
いよいよ離陸です。
わたし、結構、この離陸する時の感覚好きなんです。
スピードがぐんぐん上がっていって、そしてフワッと浮き上がる。
たまりません~
あ、でもジェットコースターは、全然ダメなのです。
人間の感覚って面白いですね。
話が逸れました。
飛行機は無事離陸し、しばらくすると安定飛行に入りました。
乗客も、どこかホッとして、荷物を出してみたりゴソゴソしだすとき。
その時、〇氏が、いきなり座席をど~んとマックスに倒してきたのです。
角度にすると、約130~140度ですかねぇ。
なんとなくイヤな予感…
これから約6時間、この人の後ろか~
でも、とりあえず我慢。
食事タイムには、当然のことながら背もたれはすっかり元に戻されました。
しかし食事が終了すると、再び背もたれマックスに。
と思ったら、背もたれマックスのまま、自分は体を起こしてパソコンをいじり出しました。
多分、タイに赴任中、あるいは出張のサラリーマンなのでしょう。
(以降、〇氏のことはサラリーマン氏とします)
にしても、
心の中で叫びます。
しばらくすると、サラリーマン氏疲れたのか、突然
と大きな声を出しました。
と、大きな声を出しながら、マックスの背もたれに体を預け、両腕を思い切り伸ばしたのです。
気持ちよさそうに
と言いながら、伸びをしたわけです。
当然、彼の両手は、わたしのすぐ眼前に。
わたしは、「このやろう」とばかりに、
その両腕をパシッと払い落とし…
たかったけれど、我慢しました。
疲れた時のこのポーズ、気持ちはわからないでもない。
続いてサラリーマン氏、靴を脱いだ足を前の壁にガバッと立てかけました。
(この表現でわかっていただけますかねぇ)
わたしの頭の中で、
プチッ
と、小さな音がしました。
これからの数時間、この男の後ろで我慢し続けるのは精神衛生上よろしくない。
小さな決意をしました。
あの~
後ろからサラリーマン氏の肩を軽く叩いてお声がけ。
ここエコノミー席で狭いので、もう少し背もたれを戻していただけませんか。
サラリーマン氏曰く。
いくらエコノミー席だからって、背もたれは倒れるようにできているし、ここはそうしていい席なんだ。
意味不明~
エコノミー席に、そんな特別席があったのか?
確かに、壁のすぐ後ろの席は前が広くなっているので、人気の席と聞いたことはあります。
でも、それはお得感のあるラッキーな席なのであって、
後ろのことも考えず好きにしていい〝 特別席 ″ ではないのでは?
だいたい、あんたさぁ
じゃあ、車が200キロまで出せるようにできているからって
どこもかしこも200キロでぶっ飛ばすか?
制限速度は守るだろうし、横を人が通ったりしたら徐行するだろうが
てめえみたいなのを、手にした権利を振りかざすことしか考えない
『権利バカ』って言うんだよ!!
と、言いたいのをグッとこらえました。
ここで揉めると、回りの乗客を不愉快にさせるし…
とはいえ、席をマックスに倒されたままだと、
わたしは自分の座席の画面が光っちゃって全然見えない。
いくら6時間ほどの旅とはいえ、退屈しちゃうよ!
そこで考えたのが、席を移動するということ。
CAさんに事情を話し、どこかに空いている席はないか探してもらいました。
ですが、残念ながら満席だったようです。
するとCAさんがチーフパーサーらしき男性を連れてきました。
わたしは、再び「これでは画面が見えない」と言いました。
すると、チーフパーサーは言いました。
あなたも同じように席を倒せば見える
目から鱗というか、びっくり仰天というか…
だって、それ、後ろの席の人にわたしと同じ思いをさせろってことですよね。
わたしの中にそういう発想はありませんでした。
ある意味、新鮮な発想。
でも・・・
もちろん、こんなやり取りをしている間も、
前席のサラリーマン氏は全くの知らん顔。
と思ったけれど我慢しました。
そこで再チャレンジ。
あの~
再びサラリーマン氏に声をかけました。
テーブルで作業したいので、席をもう少し戻していただけませんか?
作業したいと言えば応じてくれるかもと思ったのです。
が
のひと言で却下。
の掛け声と共に、前席をガ~ンと蹴り上げ、頭から水をぶっかけ
たかったけれど、我慢しました。
だって、わたし大人だもん。
そんなことをすれば、わたしの方が変な奴にされる。
こんな奴のために、なんでわたしが変人扱いされなければならない。
でも、
心の中は嵐。
それでも、わたしがグッと堪えたのは、
もしかして、わたしの方が間違っているのか?
と思う気持ちもあったから。
そんなこと、ありませんか?
自分が正しいと信じてきたことが、周りの人に当たり前のように否定されたとき、
もしかして、わたしが間違っているのか??
と、自分の価値観を疑ってしまうってこと。
そんな経験、ありませんか?
半分は、そんな状態。
もう半分は、飛行機を降りたらA氏に聞いてみようと思っていたから。
長年航空会社でチーフパーサーとして働いてきたA氏に聞いてみよう。
そう思って、じっと我慢していたのでした。
さて、通路を挟んで座っていたS子さん。
坐骨神経痛との戦いに必死のご様子。
たまにチラッと見ては、
大丈夫?
と声をかけてみたのですが、
ウン
と小さな声で応えるのみ。
あとは、お地蔵さんよろしくジ~ッつと固まってました。
ご苦労様でございます。
さあ!
そうこうするうちに、
やっと
やっと
飛行機がタイに着きました。
叫び出したいほどの喜びと解放感。
喜び勇んで飛行機を降りると、A氏に中でのことをまくしたてました。
ま、たしかに座席がそういう風にできてるからね、
倒すのがダメとは言えないわなぁ。
ダメなんて言ってないよ。
少し戻してほしいとお願いしたんだよ。
だいたいエコノミーにそういう特別席ってあるの?
A氏、笑いながら、
あるわけないよ。
エコノミーはエコノミーだよ。
でも、ここはそういう席なんだって言ったもん。
そういう奴、結構いるんだよね。
俺は、さんざんそういう奴の相手をしてきた。
特に、タイとかに赴任している奴って、
(タイではいい待遇だから)なんか勘違いしてるのが多いんだよね。
中での出来事を思い出して、新たな怒りに燃えるわたしの足取りは、
どんどん早くなり、一緒に歩くA氏もまた軽やかな足取り。
哀れ、坐骨神経痛で摺り足歩行のS子さんは、
どんどん遅れる
離れていく~
やがて、入国審査場に到着。
振り返ってみてもS子さんの姿は見えず…
入口でS子さんを待つというA氏のお言葉に甘えて、
わたしは一足先に、審査を待つ人々の列に加わりました。
希望に胸を膨らませ審査を待つわたし。
まさか、新たな試練が、またここでも待っていようとは、
誰が想像したでしょうか。
(つづく)