古いノート

昔書いた作品のいくつかを、みなさんに今年一年かけてご紹介していこうと決めたら、

仮住まい先へ持ってきた仕事用の荷物の中から、こんなノートが出てきました。

 

20年くらい前に、初めて時代物を書こうとしたときに作った、資料用ノートです。

 

表紙にも和柄の布シールなんて張ったり、

書くにあたっての心構えみたいなものまで書いたりして

氣合が入っています。

 

 

このノートはマルマンのPHILOSOPHOSです。

 

A4サイズで、紙の色は真っ白ではなく、少しクリームがかっています。

 

実はわたし、真っ白いページが苦手。

 

手帳もノートも、ページが少し黄みがかったような、レトロな感じのものが好きです。

 

 

中は横罫ですが、うっすらと縦罫も入っていて、とても使いやすい。

 

表紙の色も氣に入ってます。

 

 

ところが! これ、もう廃版になっているそうです。

 

二度と手に入らない…

 

大事に使わなければ。

 

 

中には、資料で調べた江戸時代の基本的なことから新聞の切り抜きまで、色々載っています。

 

 

 

そういえば、上京したての頃、古地図を手に上野から浅草あたりを歩いたり、

両国や深川にある江戸資料館によく行きましたっけ。

 

 

 

そして、ページをめくっていくと、最後のページに、こんな記述が。

 

自分の言いたいことを言う。

自分のやりたいことをする。

こんなことを言ったら叱られるんじゃないか

こんなことをしたら嫌な顔をされるんじゃないか

そんなことを思い煩って

ぐるぐる回り道をしたり

くねくね曲がりくねったり

そんなんじゃなくて

もっと自分の望むことと行いを

一本の線で素直につなげたい。

 

 

この当時の自分の状況を考えると、

 

 

こうありたい

 

 

という、自分への言い聞かせのようなものでしょうか。

 

 

こんなノートを見つけてしまったので、

まずは初めて書いた時代物を、新ためて手を加えながらご紹介してこうと思います。

作品の紹介

来月から、少なくとも今年一年間をかけて、

これまでわたしが同人誌や個人誌などで発表した作品のいくつかに新たに手を入れ、

連載形式でご紹介していこうと思います。

 

どうぞ、よろしくお願いいたします。

車を乗り換えるとき

ある日、ある場所で出会った5人の少年たち。

 

5人は同じ方向を見つめていた。

5人の視線の先にあるのは、高らかにそびえる山。

 

 

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あの山に上りたい!

あの山の頂上に立ったなら、さぞかし素晴らしい光景が見えるに違いない。

 

5人の思いは同じだった。

 

 

5人が力を合わせれば行けるのではないかと思った。

5人でなら行けると思った。

5人だからこそ行けると信じた。

 

 

彼らは同じ車に乗ることを決めた。

 

目指すは、彼方にそびえるあの山だ。

 

 

 

初めて乗る車は目新しくもあったが、難しいこともあった。

初めて旅する世界はとてつもなく広く、果てしがなかった。

けれど、それは楽しい道のりでもあった。

だって、仲間がいたから。

同じ山を目指す仲間がいたから。

だから、楽しかったし、心強かった。

 

 

 

 

はじめは凹凸だらけだった道も、やがてきれいな舗装道路となり、

そして高速道路に繋がった。

 

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彼らの旅のスピードは格段にアップした。

 

やがて彼らは目指す山の頂上にと上り詰めた。

 

 

 

高鳴る胸を押さえながら、彼らは目を見開いて、

頂上からの景色へと視線を移した。

 

 

そこに広がるのは、素晴らしい光景

 

 

…のはずだった。

 

 

 

 

 

だが・・・

 

 

見えたのは、さらに彼方に見える無数の高く、

それぞれに趣の違う山々だった。

 

 

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今まで一つの山だけを見つめてひた走ってきた彼らの視線が、

初めて別々の方向に注がれていた。

 

 

 

 

彼らは、氣づいてしまった。

 

 

すでに5人は、かつての少年たちではなくなっていた。

すでに5人は、自分の足で自分の人生を選び歩いていけるほどの大人になっていた。

 

 

 

改めて、これまで共に乗ってきた車を見る。

 

 

その車は、古びていた。

その車は、大人の彼らには小さすぎた。

その車は、

その車は、

・・・

 

 

 

 

彼らはその車から降りることを決意した。

 

 

あまりに思い出が多すぎたから。

あまりに近くにありすぎたから。

 

 

1度車を降りて離れなければ、伸び伸びと大きく息が吸えない氣がした。

 

一人きりで、体いっぱいに息を吸ってみたいと望んだ。

 

 

 

それに、

 

大人になった彼らの好みは、みんなそれぞれに違っていた。

 

大人になった彼らは、自分の責任において運転できる、

それぞれに違う車を選び直すことにした。

 

 

 

彼らをここまで運んでくれた、どんなに優秀な車であったとしても、

どんなに思い出のいっぱい詰まった車であったとしても、

乗り換えるべき時は来るのだ。

 

 

 

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思い出に頼って生きるより、未来を切り開く道を選ぶことは、決してそんなに悲しいことじゃない。

 

 

勇気ある前進を始めた彼らの未来は、きっと光に満ち溢れている。