八咫烏に魅せられて・・・

もうずっと前の話ですが、夢に矍鑠とした大柄のおじいさんが出てきました。
 
 
 
丈夫そうな長い杖を持っていて、その先に鳥が止まっていたんです。
 
 
 
 
それが、黒くて三本足で……
 
 
 
目が覚めてから
 
 
 
 
あれ、なんの鳥だっけ~
 
 
 
 
と、しばらく考えていたら、
 
 
 
 

八咫烏だ❗️

 
 
 
 
と。
 
 
 
 
 
 
 
ま、そのときはそれなりに感動して、でも、すぐに忘れちゃっていたのです……
 
 
 
 
 
 
 
さて、今回は、那智から熊野をめぐる旅です。
 
 
 
 
 
旅行当日は、朝8時の新幹線に乗って名古屋まで行き、
そこからJR特急に乗り換えて新宮へ。
 
 
 
 
車内でお弁当をいただきました。
 
 

名古屋の八尾彦さんのお弁当です。
 
味付けが、名古屋人のわたしの口に合いますね。
 
関東の味付けは、しょっぱいと感じることが、ままあります。
 
やはり、子どもの頃に覚えた味が、一番しっくりくるようです。
 
 
 
新宮駅から、さらにバスに揺られること1時間。
 
 
最初の訪問地、熊野本宮大社にようやく着きました。
 
 
 
 
 
 
こちらの八咫烏は、正面を向いています。
 
 
 
 
お参りを済ませたあとは、桟橋から船に乗って宿へ。
 
 
 
暮れゆく景色を眺めながら、美味しいお酒とお料理をいただきました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

連載小説『お由布』 その十六(最終回)

  十六

「男の一人住まいなんざ、こんなものさね」

 照れ笑いしながら招き入れられた家は九尺二間の裏長屋だった。しかし、部屋の隅に立てかけられた衝立に脱ぎっぱなしの着物が掛かっているのと、軒先に季節外れの風鈴がぶら下がっているほかは、こぎれいに片付いていた。

 霜月も半ば過ぎ、お由布は初めて幸吉の裏店にある住まいを訪ねた。

「いや、これでも今朝ざっと掃除をしたんだがな」

 慌てて着物を丸めて衝立の向こうに放り込むと、幸吉は明るい笑顔をお由布に向けた。

 季節外れの風鈴が、りんと軽やかな音を立てた。

「ご覧のとおり、四畳半一間きりの裏店暮らしだ。けど、一人くらい増えたってな、かえって賑やかになっていいってもんだ。隣なんざ親子六人……」

 照れ隠しからか、いつも以上に陽気に話し続ける幸吉の顔が、やがて涙で歪んで見えなくなった。

 

 家に戻る頃には、辺りはすっかり夕闇に包まれていた。珍しく清之助は先に帰っていた。

「あら、今日は珍しく早いお帰りで」

 精一杯の優しい笑顔で語りかえると、もの問いたげな清之助の視線とぶつかった。

「何か、顔に付いてまして」

 笑顔を崩すことなく尋ねる。

「いや、なに。今日はまた、随分と顔色も良いようだ」

「ありがとうございます。おかげさまで気持ちの整理もつきました。あなたこそ、お仕事あまり無理をなさらないで。どうぞ、これからもお元気で」

 夫の目を見つめてきっぱり言い切ると、清々しい気持ちで夕餉の支度に取りかかるのだった。

 

 

 お由布は、これまでの自分の人生を顧みて思った。

 これまでは、ただ流されてきただけだったと。父の死。母の死。奉公。そして清之助との祝言。もの言えぬ生活。それはあたかも、降りかかる雨に傘をさしてしのぐだけで精いっぱいのような人生だった。けれど、これからは自分で考えて生きていこう。自分で考えて、そして自分で選んで生きていくのだと。雨が降ってきて濡れたって構うものか。それも、また人生だ。

 

 

 一人の男が、街道を歩いている。京への道を目指し、黙々と歩いている。

 京都の大店の奉公人であるこの男は、本店での代替わりに伴って江戸店から呼び戻されたのだった。本店では、支配役への昇進が決まっている。だが、本来なら横に付き添って歩いているはずの妻の姿はない。一人で黙々と歩を進める男の顔は、少し寂しげだ。それは、必ずしも街道を吹き抜ける北風のせいだけではあるまい。

 

 

 日はとうに西に傾いて、師走の冷たい風が時折り裏店の薄い戸口を揺らす。今もはずさずに軒下に掛けてある季節外れの風鈴の音に、心のひだも軽やかに揺れる。隣家の子供たちはもう寝てしまったのか。先ほどまで聞こえていた騒々しい声も止んで、今はすっかり静かになっていた。

「じき帰ってくる時分だろう」

 お由布は刻んでおいた青菜を小鉢に盛り付けると、ふと顔を上げた。夕闇が迫りつつある部屋の隅には、古びた柳行李と風呂敷包み。

 お由布の髪には、浅草寺で買い求めた赤い玉簪。昨夜、風呂敷包みを抱えてこの長屋にやってきたお由布の髪に、幸吉が挿したのだ。それが、二人の祝言だった。

 風の音に交じって足音が聞こえる。遠くからかすかに聞こえていた足音がだんだん近づいてきて、そして家の前で止まった。

 鍋の蓋を開けると中から湯気が立ち上り、お由布の頬が上気した。

 

    おわり

 

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

心より御礼申し上げます。

連載小説『お由布』 その十五

 十五 

 女でしくじったのだと、あの日幸吉は言った。

「俺は、いいかげんな男でね。女一人幸せにしてやることもできない奴で。いざとなったら、すぐに逃げ出しちまうような情けねえ男なんだよ」

 とも言った。

「まだ、忘れられないのですか」

 お由布は尋ねた。だから、いまだに一人身なのかと。

「ああ、そうだね」

 幸吉のひと言に、思わず足が止まった。気がついた幸吉が慌てて付け加えた。

「いや、そんなんじゃなくってさ。違うんだ。忘れられないのは、相手の女のことじゃなくって、その時のダメな自分のことさ」

 近江の商家に奉公していた幸吉は、そこの跡取り娘といい仲になったそうな。ところが、そこへ婿取りの話。世間知らずの跡取り娘は、幸吉に一緒に逃げようと迫ったのだそうだ。

「だけどさ。俺、まだ手代にすらなってなかったし。そんな俺がどこにどう逃げて、お嬢さんを養っていけばいいのか。それに、もし店にばれたらとか、あれこれ考えてたら、なんだか怖くなっちまってね」

 で、ある晩、こっそりと店を抜け出して、そのまま江戸に出てきてしまったのだそうだ。

「なんせ若かったし。俺も世間知らずだったしね」

 頭を掻きながら幸吉は続けた。

「あれから10年。俺もどうにかこうにか食っていけるようになって」

 風の便りに、お嬢さんも婿を取って幸せにやっているとそうな。

「だから、もう許されてもいいかなと思うんだ。そして…」

 幸吉が、お由布の目を見つめて言った。

「今度こそ、今度こそ、逃げないって決めたんだ」

 早々と輝く一番星が、二人を見守っていた。

 

 

 清之助が出掛けに、

「たまには外に気晴らしに行くといい。何か気に入ったものがあれば、買ってはどうか」

と、めずらしく言った。

 髪を整え、紅も引いた。手文庫の中から取り出した金を財布に入れて、お由布は外に足を踏み出した。青く澄み切った空が、どこまでも続いている。

 少し気分を変えて、柳原から右に折れてみた。川岸に沿って歩いていくと、やがて両国橋。橋のたもとから向こう岸に目をやる。視線の先には、お由布の奉公していた「日野屋」がある。今ごろはすでに大勢の客が店を訪れて、皆忙しく立ち働いていることだろう。店のある方角に向かって手を合わせると小さく頭を下げた。広小路を横切って隅田川沿いにしばらく行くと浅草に出た。

 十五年前の十二月二十五日。父は、ここで命を落としたのだった。仕事納めの朝だった。

 浅草と言えば浅草寺。ここ一ヶ所だけで、あらゆる現世利益の願望が叶うといわれる庶民信仰の中心地であった浅草寺は、江戸随一の盛り場でもあった。境内は、そのご利益にあやかろうという老若男女で、随分の人出だった。人いきれと久しぶりの外出とで、たまらず近くの茶店に入る。一息ついたところで、本堂の観世音菩薩をお参りし、数ある店をのんびりと覗いて回る。

 一軒の店の前で、足が止まった。店先に置いてある、赤い玉簪が目にはいった。いかにも子ども向けの粗末な作りではあったが、心に響くものがあった。

「おとっつぁん」

 お由布は迷わず、その赤い玉簪を買った。

 めずらしく早く帰ってきた清之助は、買ってきた簪を見ると、

「おや、まあ。また、随分と子どもじみたものを。もうちっと、ましな物はなかったのかい」

 やっぱりお前はと、目が言っていた。

 だが、お由布は構うことなく、その赤い玉簪を鏡台の前に供えるようにそっと置いた。

 

 

 

 

いよいよ次回が、最終回です。