骨が抜けた!

ここに具体的に書くことは、できないのだけれど……
 
 
喉に刺さった小骨のようだったものが
ようやく抜けてスッキリするようなことがあり
 
 
心が、またひとつ軽くなりました。
 
 
 
感謝
 
 
   

元号WS開催しました

昨日は、清澄白河のシェアオフィスにて、
 
 

 

を、開催いたしました。

 
 
 
 

 

最近、なぜかお子さまとのご縁に

恵まれております。

 

前々から、

 

子ども

 

がキーワードとして、

意識の中に浮かんできてはいたのですが、

わたし自身に子どもがいないし、

どちらかと言えば、

 

子ども

 

に縁のない環境で育ってきたせいか、

勝手に

 

子どもは苦手

 

と思い込んで生きてきました。

 

それが、このところ、

お子さま参加率が高まっております。

 

そして、結構楽しめている ふたご座

 

今後の展開が楽しみです🎵

 

 

ご参加くださったみなさま、

ありがとうございました 😀

 

「マリンブルーな季節 2019」 12

   12

「今、ちょっと忙しいので」

 やっと繋がった電話は、素っ気ない一言で、あっさりと切られてしまった。そうして、2度と繋がることはなかった。

 今までどんな時でも、電話をかければ、そこに山内がいた。それが当たり前になっていた。

 電話を通じて、真奈子は山内を誰よりも身近に感じていた。しかし、こうなってみると、その繋がりが、いかに儚いものだったのかを、今更ながらに思い知るのだった。

 振り返ってみれば、真奈子は山内のことを、ほとんど何も知ってはいなかった。出身は日本海側で、アマチュアバンドのマネージャーをしている。それでは、普段は何で生計を立てているのか。家族は? どこに住んでいるのかさえ、定かには知らないのだった。

 新宿のJAMやRUIDO、渋谷APIA、eggman……。

 今までKIXの出演したことのあるライブハウスを一軒残らず回ってみたが、山内の姿はどこにもなかった。

 

「山内さん、どこにお住まいですか」

「お住まいなんて、そんな洒落た表現が似合うような場所じゃないですよ」

「いいじゃないですか。教えてください」

「いや、本当に。古くて汚くて。風呂もないんですから。ま、隣が風呂屋だから、特に不便を感じたこともないですけどね」

「お風呂屋さん? いいじゃないですか。かえってお洒落ですよ、今時」

「なんか、そうみたいですね。観光ブックにも載ってるようで、週末になると場違いな格好の女の子たちが、ウロウロしてますよ」

「なんていうんですか。その、お風呂屋さん」

「え、《おとめ湯》っていう古い風呂屋ですけど。洗い場にある水槽にね、鯉が泳いでるんですよ。それ見ながら湯につかってると、癒されるっていうか、ま、そんな感じですかね」

「へえ、面白そう。そうだ、今度そこに連れていって下さい。それで、その後長内さんのアパートでひと休みってのは、どう?」

 真奈子は調子に乗った振りをして、聞いてみた。

「それは駄目です」

 山内の反応の素早さに面食らう。

「いや、あの、なんていうか、汚いですよ、おじさんの一人住まいの部屋なんて。来たって、何も面白くなんかないですよ」

 

 以前に交わした会話を思い出した。

 どうして、もっと早く気が付かなかったのだろう。もっともらしい言い訳で上手くかわされて、そのまま忘れていた自分が情けない。

 自分は、なんて間抜けなんだ。アパートに来てもらっては困る、何か理由があったのだ。そこに誰か……例えば、一緒に住んでいる女の人がいるとか。

 そうだ、きっとそうだ。そうに決まっている。

 真奈子の頭の中で《おとめ湯》という言葉が、激しく点滅した。

 本屋に行って、東京関連のガイドブックを手当たり次第にめくり、おおよその見当を付けると、すぐさま電車に飛び乗った。

 ほんの数ヶ月前までは、何もすることを見つけられず、部屋で1人鬱々とした日々を送っていたのに。

 山内に、もう1度会いたい。

 何が「すまない」のか。

 何に、変わりたかったのか。

 それとも……それとも、ただ単に怖じ気づいただけなのか。

 真奈子は、とにかくもう1度山内に会わなければと、それだけを呪文のように心の中で唱えていた。

 

《おとめ湯》は、難なく見つけることができた。

 古めかしいレンガ造りが、逆にお洒落に感じられた。入り口にはすでに10人前後の人たちが、夕方4時の営業開始を待っていた。妙にこぎれいな身なりの賑やかな一団は、観光客だろうか。

 そして、隣には、確かにあった。古びたアパートが。

 観光客で賑わう銭湯と、建って間がないと思われる瀟洒なマンションに挟まれて、そこだけ時代から取り残され忘れ去られたような、古びた1軒のアパート。

 どきどきする胸の鼓動を押さえながら、1階の入り口にある郵便受けの名前を、順に見ていく。

 田所、太田、小林、大河内……。この中にも自分のような、1人暮らしの女性がいるのだろうか。書いてあっても苗字だけ、何も書いてない郵便受けもあり分からない。

<山内>

 あった。やっと見つけた。

<山内>

 確かに、そう書いてある。間違いない。日も傾いて、肌寒さを感じるほどの秋風が吹き始めていた。灯ったばかりの、薄暗い電灯の下で<山内>という文字が輝いて見えた。

 山内は東京へ出てきてから、ずっとこのアパートに住み続けているのだろうか。それとも、どこか他の場所から流れてきたのだろうか。目の前にあるアパートの様子と、今自分の心の中に浮かんだ「流れてきた」という表現が、あまりに似合いで、思わず苦笑が漏れた。

 薄汚れた3階建てのアパートのすぐ横に、真新しいマンションが建っている。これでは、せっかく付いているベランダからも、日の光は入らないだろう。山内は毎日、この新築マンションの壁を見つめながら、何を思って暮らしているのだろう。

 部屋は305号室。外から伺うと、明かりが付いていた。ほっとすると同時に、心がざわざわとざわめき出した。

 エレベーターはない。錆びかけた手摺りにつかまって、階段を1段1段、確認するように上がっていく。コンクリートで作られた急な階段を7段上がると小さな踊り場があって、更に7段上がると、2階だ。それをもう1度繰り返して、ようやく3階に着いた。

 息が切れるのは、階段を上がってきたせいか。それとも、間もなく山内の部屋のドアの前に立つという、緊張感のためか。

 305号室なのだから、5つ目の部屋だと分かっていても、1つ1つの部屋の表札を確認していかずにはいられなかった。

<山内>

 味気ない、ホームセンターででも買ってきたような、プラスチック製の表札が掛かっていた。

 その下の、小さなボタンを押す。

 チャイムの鳴る音が、ドアを通して微かに聞こえた。

 しばらくの間があってドアが開き、驚いたような、困ったような、複雑な表情が現れた。

「来ちゃった」

 努めて明るく、おどけたような声で言う。

 山内の表情は、変わらない。

「ごめんなさい……、突然尋ねてきたりして」

 未だ言葉を失くしている山内に、畳み掛けるように話し続ける。

「あの、あの、だって、最近電話しても話してもらえないし、なんか繋がらなくなっちゃうし、私、不安で、それで」

「すみません」 

 ようやく、山内が口を開いた。

「いえ、そんな、いいんです。いいんですけど、でも」

「悪い、ちょっと今、忙しくしててね」

 そう言って、ドアを閉めようとする。見れば、どこかへ出かけるところだったのか、背広姿だった。

「ちょっとだけ、ちょっとだけでいいの。話をさせて下さい。お願い」

 ドアの隙間から体を滑り込ませて、無理やり上がり込む。

 諦めたように立ち尽くす山内の視線が、ちらりと何かを捕らえた。つられて真奈子もその方に目をやる。テーブルの上に、今書き上げたばかりといったふうに、無造作に広げられた手紙があった。

 吸い寄せられるようにテーブルに近づく。

 気配を察した山内が咄嗟に手紙を隠そうと手を伸ばす。

 そうはさせまいと一瞬早く手紙を手にし、文面に目をやる。

「どんなに、君のことを大切に思っているか」

    真奈子の心が凍りつく。

「できれば……できれば、これからも、ずっと君を見守って」

 聞こえよがしに、振り絞るような大声で読み上げる。背中には、返しなさいという押さえたような山内の声。

 心が騒ぐ。

「一生を捧げても」

 手が震える。

「いい加減にしろ!」

 男の声だった。今まで一度も耳にしたことのないような、山内の腹の底から響く厳しい口調に、真奈子ははっと我に返った。

 震える手から、手紙が落ちる。落ちた手紙を山内が拾い、愛しそうにじっと見つめたかと思うと、次の瞬間ビリビリと破いてゴミ箱に捨てた。

「人の手紙を読むなんて、あまり趣味がいいとは言えませんね」

 いつもの穏やかな口調に戻って、山内が言った。

 涙が溢れた。

 恥かしくて、情けなくて、真奈子の目から涙が溢れて止まらなかった。

「私、私……」

「気が済みましたか。僕はもう行かなければならないのでね」

「ああ、ごめんなさい。私ったら」

「もう、いいから。ね、もう、いいですよ、真奈子さん」

「でも、でも」

「いや、本当。もういいですから、ね」

「KIX。KIXの次のステージは、どこですか。それだけ教えて。お願い」

 しゃくりあげながら、やっとそれだけ言った。

 もう、KIXしか残っていなかった。人の手紙を勝手に読んでしまった。あんな文面を見てしまった。もうKIXしか、ないのだ。

「……。鹿鳴館。確か鹿鳴館って、聞いてますけど。

 他人事のように答えると、山内は背を向けた。真奈子は黙って部屋を出た。

 

 鹿鳴館

 目標にしていたライブハウスではないか。心待ちにしていた舞台ではないか。

 すごい、すごいよ。やったね。でも、もう一緒にお祝いできないんだね。もう、だめなんだね。

 

 アパートを後にしながら、真奈子は今さっき訪ねたばかりの山内の部屋の様子を思い起こしていた。

 玄関脇にあった台所の流しには、汚れた食器など1つもなかった。テーブルの上の新聞もきちんと畳んで置いてあった。

 1人住まいの男の部屋を訪ねたことなど、これまでに1度もないが、兄の部屋を思い出してみても、母が掃除をした後を除いては、あれほどきれいに片付いていたことはなかった。

 真奈子は、未だ姿を見せずにいる女の気配に、耳をそばだてた。

 

 

 

つづく