四季島の旅 ⑩

いよいよ四季島の旅も、最終日。

 

朝は列車内で静かに過ごしました。

 

鶴岡「アル・ケッチァーノ」奥田政行さんによる朝食は、

野菜もたっぷりで、体の中から爽やかに。

 

 

 

そのあと、わたしが一番行きたかった所、燕市へ。

道路標識のポールも、ナイフやスプーンの形をしています。

 

 

 

お邪魔したのは、玉川堂(ぎょくせんどう)さん。

 

 

鎚起銅器(ついきどうき)の技を守り続けています。

 

 

職人さんの働く姿には、心惹かれます。

 

 

四季島最後のお食事は、車内での握り寿司でした。

 

新潟の寿司職人の方々が列車に乗り込んで握ってくださったお寿司を、

美味しい地酒とともに堪能させていただきました。

 

 

 

上野駅に着くと、「プロローグ四季島」で、フェアウェルパーティー。

クルーの皆さんから一言ずつ、ご挨拶がありました。

 

こちらこそ、大変お世話になりました。

 

そして、車庫へと戻ってゆく

四季島をみんなで見送ります。

 

 

 

わたしたちを『深遊探訪(しんゆうたんぼう)』の旅へと

いざなってくれた四季島、ありがとう。

 

 

旅紀行『四季島の旅』は、これにて終了です。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

 

思いつきのひと言

勝負というのは、必ずどちらかが勝って、どちらかが負ける。

 

共に勝ち残ることは許されない。

 

この至極当たり前のことが、大変に辛く感じられる。

連載小説『お由布』 その十二

    十二

 日増しに寒さも和らいで、辺りに梅の香りが漂う季節が、巡ってきた。

 それにしても、今日は朝から随分と湿気が多い。空はどんよりと重く垂れ下がり、今にも雨が降り出しそうでいて、未だ思い切りがつかないとみえる。生暖かい風が、ぐずぐずとまとわりついて、心地の悪いこと限りない。 こんな日は、いつにも増して頭の奥に鈍い痛みを感じる。

 夕方になって、ついに雨が降り出した。

「とうとう踏ん切りました」と言わんばかりの激しい降りで、家全体が濡れそぼっている。頭の痛みは更に増して、寄り合いで帰りが遅くなる清之助の帰りを待たずに床に入った。

 夜も更けてから、降りしきる雨の中を清之助がようやく家に帰り着いた。家の中に入った途端に口から漏らしたため息が、静まり返った家の空気を、痛々しげにそっと揺らした。

 翌朝には、あんなに激しく降り続いていた雨も、ようやく上がった。かといって、爽やかに晴れ渡るというわけでもない。地面にたっぷりと吸い込まれていた雨水が春の日差しにあぶり出され、ぬるぬると暖かく湿気の多い一日だった。

 朝起きた時からずっと、頭の中に幕でも張ったかのような、うすぼんやりとした気配が、お由布を捕らえて離さない。

 清之助はいつもと変わりなく、ひと言ふた言小言を言い置いて、店へと出かけていった。清之助とて、お由布のそんな不調に気がついていないわけではなかったが、心配する気持ちが、結局はいつもと変わらぬ小言になってしまうのだった。

 何をするわけでもなく、昼が過ぎ、夜を迎えていた。

 その日、お由布は一段と具合が悪かった。帰ってくれば気配でわかる。すぐに起きて世話をすればいいだろう。そう思って、早々に床に入った。

「いつ、帰ったのか」

 夜中にふと目を覚ましたお由布は、傍らで寝ている清之助に気がついて記憶を探った。それほど、深く寝入っていたとは思わずにいた。

 目の前には、寝間の暗い闇が果てしなく広がっている。

 喉の渇きを覚え、音もなく布団からするりと抜け出すと、けだるい体を引き摺るように土間へと降りる。かめのふたを開け、柄杓で水をすくう。そのまま口をつけて、ごくりと飲み干す。気配に目を向けると、障子が明るく照らされている。そっと開けて外を伺う。惹かれるように見上げれば、そこだけ切り取ったような月である。

「満月――」

 昼の間はどんよりと曇っていたはずが、大いなる天空に見事な満月が浮かんでいた。 その時--。

 目の端にきらりと光るものが映った。お由布の目はその怪しい光に惹きつけられて動かない。そっと、手を伸ばす。しまい忘れていた包丁の刃が指先に触れた。その柄を握りしめて持ち上げると、窓から差し込む月明かりに翳してみる。包丁の刃は、月の光を受けて鈍い光を放っていた。

「きれい」

 声に出してつぶやく。

「きれい、きれい、きれい」

 歌うように何度も声に出しながら、包丁を掲げてぐるぐると回る。

「きれい、きれい」

 自分の声に酔いながら、さらに回り続ける。

 やがて、回りの景色がぐらりと大きく傾いて、お由布はその場に座り込んだ。

 誘いかける鈍い光。応えるように触れる白い指先。少し力を入れれば、容赦なく切りつけるであろう刃の冷たさが、なんとも心地良い。

 お由布の頭の中で、何かがぷつんと音を立てて切れた。

「く、く、く」

 口元に笑みが浮かぶ。

「き・れ・い」

 包丁に語りかけると、お由布はおのれの胸に刃を向けた。

 お由布の心をがんじがらめに縛り付けていた途方もない寂しさが、今まさに弾け飛ぼうとしていた。

「お由布!」

 叫ぶ声が聞こえたかと思う間もなく、お由布は激しい力で突き飛ばされた。

 弾みで包丁が土間に転がり落ちる。

「あ」

 反射的に手を伸ばす。

「お由布、よせ、よさないか」

 後ろから強い力で羽交い絞めにされる。

「お由布、お由布」

 自分を呼ぶ声が、遠ざかっていき、やがて何も聞こえなくなった。